第10回 脳卒中市民シンポジウム
コーディネーター:森本雅徳(日本脳卒中協会高知県支部長、高知医療センター)

新薬「t-PA」の登場と使用の現状

森本脳卒中は緊急治療が必要で、特に脳梗塞は一刻を争います。血栓を溶かす新薬t-PAが2005年に認可されました。欧米では10年以上前から使われ、治療成績を上げています。

高橋t-PAの登場以前も血栓溶解剤はありましたが、カテーテルで血栓に誘導して投与するため、効果が出るまで時間がかかり、器具や設備、人的資源も必要でした。一方t-PAは静脈注射で血栓に届く使い勝手の良い薬。日本での治験で、軽症の場合、回復するのがこれまで約半分だったのが、t-PAでは約3分の2、超重症では数%だったのが、t-PAで十数%に上がりました。ただ、合併症として、出血性脳梗塞を起こす割合が高く(5%)、より慎重な使用が求められます。近森病院で、今年1月から5月まで脳神経外科に47人の脳梗塞の患者さんが来られ、そのうち4人(約8%)にt-PAを使いました。内科も合わせて平均すると4から5%、全国的にもこのくらいですが、目指すのは10%です。

森本脳梗塞の全例に使えないのは、やはり時間の壁ですか。

高橋t-PAは投与開始時間が発症から3時間までと厳密に決められています。では、3時間以内に病院へ着けばいいかというと、そうではない。いろいろな検査や説明で約1時間を要するので、病院へは2時間以内が望ましい。当院ではt-PAのクリニカルパス(治療計画書)をつくり、スムーズに治療が行えるよう努力しています。

西村当院でもクリニカルパスで、治療の流れを厳しくチェックしています。患者さんが来てt-PAが使えそうな段階でICU(集中治療室)を準備し、投与後24時間そこで管理します。

山崎一番時間を要するのが、ご家族にt-PAについてご説明して了解をいただくまでです。なかなか連絡がとれないこともありますね。

河野t-PAはもろ刃の剣で、効く時は劇的に効きますが、合併症の問題もあります。ご家族に同意をいただくには、日頃からまず皆さんにt-PAを理解していただくことも大切でしょう。

高齢化率の高い高知県 救急体制のさらなる改善を

森本t-PA活用のためには早期発見・受診が必要。そのためには救急搬送体制の充実も大切ですが。

熊田救命センターへの搬送時間を都道府県別に見ると、高知県はワースト4位で約87分です。この理由はさまざま。高知市とその周辺以外は、高速道路がないため、多くの地区で搬送に40分以上かかります。また、人口は高知市内に一極集中しています。県内の65歳以上人口の割合は、全国平均約20%に対して約26%と高く、それも過疎地域ほど高い。さらに、脳卒中の専門施設や専門医は、高知市内と幡多地区に集中しています。

川内高知県の郡部の基幹的な病院における常勤医師の数は、この4、5年で約2割減りました。また国家的プロジェクトとして、医療施設の介護施設への転換が進み、今後、急性期のベッドが減る懸念があります。その対策として今年4月、医師確保推進室を設置し、県の救急医療の改善を図っています。

熊田脳梗塞発症から3時間がゴールデンタイムといわれ、とにかく早く病院へ着かねばなりません。その方法のひとつがドクターヘリ(救急医療用ヘリコプター)。高知県内ならどこでも30分以内で医療機関に到着します。ドクターヘリにより地域格差のない救急医療が受けられるよう、現在、法制化が国会で審議されています。

川内高知県では、よりドクターヘリに近い形で、消防防災ヘリを活用した広域救急搬送を行っています。出動件数は、一昨年の高知医療センター開設から急速に増え、脳卒中の方も多く運ばれています。

森本各病院での救急医療体制はいかがですか。

西村 幡多地区で、2005年に脳卒中で病院に来られた方のうち約60%は、自宅で様子を見たり、発見が遅れゴールデンタイムを過ぎています。発症後すぐ来られるのは約40%で、3時間以内は16%です。全国平均で3時間以内が36%というデータもあり、かなり厳しい状況です。

河野当院では、去年1年間、脳梗塞で運ばれた方が219人、そのうちt-PA治療は15人(約6.8%)です。t-PAが使えなかった理由の多くは、独居老人で発症時間がわからず病歴も聴取できないから。時間的には満たしているのに、使えない症例がかなりあります。ご家族や状況のわかる方も一緒に救急車に乗り、飲んでいる薬も持参し、かかりつけ医も知らせていただきたいですね。

高橋 金曜の夜に症状が出ても、土日は病院も休みだし月曜まで待って行こう、という奥ゆかしい方もおられます。脳卒中は1時間の違いで生死が分かれることもあり、脳梗塞ならt-PAが使えるチャンスを失いかねません。疑わしいならすぐ救急車を要請してください。

江口救急車での搬送時に、直接病院へ連絡して受け入れ確認をとるのですが、その返事を少しでも早くいただければ、数分の時間短縮ができると思います。

森本救急隊はどの施設に運ぶか、基準はありますか。

江口かかりつけ医の病院名がわかれば、まずそこが脳卒中に対応できるか検討のうえ、できるだけ現場から近い医療機関に連絡を入れます。ただt-PAに対応している医療機関の把握まではできていないのが現状です。

川内県の医療計画の見直しに向けて、診療拠点の機能の明確化を進めており、県民への明示も検討中です。急性期における脳卒中の診療拠点についてもデータを蓄積中です。

自分や家族の健康のため 健康ノートを作ろう

森本 t-PAの登場で、医療従事者の意識は変わりましたか。

内田脳卒中のとらえ方もかなり進歩しました。t-PAで劇的に治る患者さんを目の当たりにし、職員が「脳卒中は治せる」と実感すれば、患者さんにも伝わります。

西村投与の準備を行う段階で勉強もするし、意識も変わる。職員すべてが迅速に動ける体制になってきましたね。

河野t-PAを機に、救急医療全体の底上げができたと思います。

山崎t-PAは発症時間が確定しなくては使えません。いつもと動きが違う、会話が違う、顔がゆがんでいるなどの変化を発見するのは、家族や周囲の人間です。仲良くして、いつも顔を見合わせてほしいですね。

内田既往歴、飲んでいる薬、かかっている医療機関、家族への連絡法などを記しておけば、たとえ意識のない状態で運ばれても迅速に治療できます。日頃から、ご自身やご家族の「健康ノート」を作っておくことをおすすめします。

森本t-PAの人口あたりの使用量は、都道府県別で高知がもっとも多く、本日ご参加の先生方も力を入れています。市民の皆さんも、日常生活で脳卒中と思われる方に出くわしたら、今日のお話を参考に、一刻も早い通報に協力するなど、ぜひ治療に参画してください。本日はありがとうございました。