脳卒中は脳の血管が詰まる「脳梗塞(こうそく)」、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」の三つを総称します。主な症状は(1)片方の手足や顔半分の脱力やしびれ感(2)片方の目が見えない、視野の半分が欠ける(3)言葉が出にくい、理解できない(4)経験のない激しい頭痛(5)原因不明のめまいや失神です。
脳卒中の中でもっとも多い脳梗塞は、(1)脳の深部の細い血管が詰まる「ラクナ梗塞」(2)脳表面の太い血管の動脈硬化が進展して血栓ができる「アテローム血栓性脳梗塞」(3)心臓や大動脈の血栓が脳の動脈に流れて詰まる「心原性脳塞栓症」(4)分類不能の4病型に分類されます。
脳梗塞の治療は病型により異なるため、まず検査が必要です。CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴断層撮影)、脳血流シンチ(SPECT)など画像診断とその他の所見から病型を確定します。
発症から約1カ月の急性期の治療は、近年大きく進歩しました。「切らない治療」として、血栓を溶かす、血液を固まりにくくする、脳細胞を保護するといった多彩な薬物療法があり、t-PA(血栓溶解薬)という超急性期に使用する新薬にも期待できます。また、カテーテルを血管に通して直接血栓に薬を注入する血栓溶解療法、血管を風船で広げる経皮的脳血管形成術、金属製の管を留置するステント治療など、血管内治療も進んでいます。
脳卒中の危険因子は、高血圧、糖尿病、不整脈、たばこ、アルコール、コレステロール、塩分や脂肪の過剰摂取、運動不足、肥満です。これらの治療と生活習慣の改善が予防の第一歩です。発症後の対応が早いほど予後が良いので、症状が出たらすぐ病院へ行きましょう。
現在の脳卒中治療は、科学的根拠による「脳卒中治療ガイドライン」を指針とします。どのタイプも薬物療法がベースですが、外科的治療を中心に説明します。
アテローム血栓性脳梗塞は、再発予防のために、頭皮の血管と狭窄(きょうさく)した先の脳血管をつなぐバイパス術を行うことがあります。これは、脳血流検査で血管拡張の予備能力が10%以下で、何度も症状を繰り返すおそれのあるとき適応を考えます。一方、狭窄が頸部(けいぶ)の場合、症状があり血管の50%以上が狭窄、また症状がなく60%以上が狭窄の場合に、首を切開して変性部を除去する頸動脈内膜剥離(はくり)術を再発予防のために行うこともあります。血管拡張術という血管内治療も選択肢のひとつです。
心原性脳塞栓症は、議論のあるところですが、脳に近い頸部の動脈が完全にふさがると命の危険が高いため、血栓を管から吸い取る吸引術を用います。脳の腫れがひどい時は、救命のため頭蓋骨(ずがいこつ)を外し脳を切除する内外減圧術を行います。ラクナ梗塞は薬物療法が基本で、手術は推奨されません。
脳梗塞は、単に詰まった血管を通せば良いわけではありません。出血や脳浮腫がひどくなることもあり、救急外来での診断が重要です。
脳出血は脳内の血管が破裂する病気です。手術は最近まれですが、出血が多く意識障害が強い場合、開頭手術や定位的血腫吸引術で血腫を取り除き、脳へのダメージを抑えます。
くも膜下出血は、脳表面の血管にできた動脈瘤(りゅう)が破裂します。開頭して動脈瘤をクリップでとめて再出血を防ぐクリッピング手術や、動脈瘤の内部をふさぐコイリング(コイル塞栓術)という血管内治療があります。
脳卒中は高齢者が多く、手足のまひなど障害が残ることが問題です。それを防ぐには、適切な治療を早く受け、適時・適切なリハビリが肝要です。
急性期(発症後約1カ月)は、専門病院で徹底した管理下、病状の悪化や合併症を防ぎながらのリハビリです。長期間体を動かさないと、精神的・身体的な機能が低下し(廃用症候群)、寝たきりの原因となります。集中治療室の段階から、関節運動や呼吸訓練など各専門スタッフによるリハビリが大切です。特に後々口から食べられるよう、口中を清潔に保つ口腔(こうくう)ケアの重要性が最近注目され、高知県でも歯科医や歯科衛生士とともに改善を図っています。また、重症であっても命の危機を脱したら、座る、起こす、車いすでトイレへ、食事や着替えもできるだけ自分で行うなど、ベッドにいる時間を少なくします。何もかも世話をして安静に保つのは、一見やさしいようで寝たきりをつくるもとです。
次に、回復期(約3カ月)のリハビリは、救急病院で峠を越えた後、リハビリ専門の病棟や病院で行います。再発予防や糖尿病、高血圧など慢性疾患の治療とともに、障害を改善し寝たきりを予防する集中的リハビリで、自宅に戻った時、以前の生活に少しでも近づけることを目指します。医師、看護師、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、管理栄養士、薬剤師など、領域をこえたチーム医療で、患者と家族にかかわることが理想です。
退院後は維持期(発症から3~6カ月以降)です。自宅や施設で、主に介護保険サービスを利用しますが、実際には訪問リハビリや通所リハビリが充実していない地域もあり、今後の課題です。
かかりつけ医の立場から、脳卒中と心についてお話しします。患者さんのなかには、まひがなくなり職場に復帰したという軽症の方でも、気分が沈む方がおられます。重症の方は体が不自由な分、思うようにできない、伝えられないもどかしさから抑うつ状態になりがちです。「元気」は、心の健康と体の健康の両輪の上に成り立つのです。
患者さんや介護するご家族が、抑うつかどうかを判断するのに、簡単な質問があります。(1)眠れていますか?(不眠や朝早く目覚める人は要注意)(2)食べられていますか?(3)体は疲れていますか?(4)朝と夜で調子はどうですか?(朝気分が悪く、夜良くなる人は要注意)(5)気分は重たくないですか?
時々患者さんにこの五つを聞き、または患者さんや介護者が自問自答して落ち込んでいると思ったら、次の六つを心がけてみてください。(1)肩の力を抜く(2)理屈の世界から、少しいい加減になる(3)人に頼る、人に頼む(4)エネルギーをためる(5)元気のない時は食べて寝て1日過ごす(6)自分のしてきたことを認める。抑うつした心は固くなり、何事も悪い方へと考えます。「そんなに頑張らなくていいよ」「時には休もうよ」と言ってあげる『心のマッサージ』が必要です。
そして心は素直にゆらしましょう。周囲にあたり散らしたり、イライラするのではなく、「つらいんだ」「この病気さえなければ」という言葉が出てもいいのです。またユーモアも大事です。笑うことで、ふっと心が軽くなることがあります。
ご家族やかかりつけ医が、患者さんの心を受け止め支える日々が、本当の意味での脳卒中治療の継続だと思います。
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