脳卒中市民シンポジウム
座長

【脳卒中の危険因子】

脳卒中予防のため若いうちから
適正な生活習慣を身につけて

滋賀医科大学公衆衛生学

三浦 克之氏

三浦 克之氏

  脳卒中は脳の血管の病気で、大別して血管が詰まる脳梗塞(こうそく)、血管が破れる脳出血と、くも膜下出血の3タイプがあります。脳梗塞はさらにラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓(そくせん)症に分かれます。突然発症するのが特徴で症状はさまざまです。よくあるのが半身の運動まひで、ろれつが回らない、言葉が出ない、視野の半分が欠ける、などです。
 滋賀脳卒中データセンターによると、2011年の滋賀県の脳卒中発症率は、人口10万人当たり男性210人、女性177人。脳梗塞が全体の60~70%を占め、男性は50歳代、女性は60歳代から発症数が増えます。
 脳梗塞の中でも、心原性脳塞栓症は、心臓や大動脈にできた大きな血栓(血の塊)が、血流に乗って脳の太い血管に詰まります。その原因は心房細動という不整脈の一種です。またラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞は、血管が狭くなった部分に血栓が詰まります。高血圧、喫煙、糖尿病、脂質異常症などによって進む動脈硬化が最大の危険因子といわれます。
 脳出血の最大の危険因子は高血圧です。過度の飲酒も危険因子です。くも膜下出血は、脳表面の血管にできた動脈瘤(りゅう)が破裂して起きる病気ですが、高血圧、喫煙、過度の飲酒なども誘因になります。
 最近、高血圧の基準値についてさまざまな報道がされており、日本高血圧学会による診断基準「140/90以上」が緩和されると誤解されたかもしれません。高血圧の基準値は、今元気かどうかで決めるのではなく、将来の脳卒中や心臓病の危険度を予測して決めています。血圧が高いほど将来の脳卒中の危険度は上がるので、日本高血圧学会は理想値として至適血圧「120/80未満」を定めています。こうした基準値は長期の疫学研究で決まります。私たちの研究グループでは日本全国からの集団を24年間追跡調査し、中年期の血圧が高いほど、将来脳卒中など循環器疾患による死亡リスクが増えることを報告しました。
 脳卒中の原因となる生活習慣病を引き起こすのは、塩分の過剰摂取や肥満、運動不足、喫煙、過度の飲酒などです。若いうちから適正な生活習慣を身につけて、血圧を低く保つことが大切です。

【脳卒中を薬で治す】

脳梗塞の治療は時間との戦い
早い受診で適切な薬物療法を

滋賀医科大学神経内科

寺島 智也氏

寺島 智也氏

  脳卒中は、がん、心臓病、肺炎に次いで日本の死因の第4位です。1960年代は第1位であったことを思うと死亡率は下がりましたが、患者数はあまり変わりません。
 脳梗塞の治療で一般的なのが薬物療法です。病状により異なりますが、抗血栓療法、脳保護療法、抗脳浮腫療法などさまざまです。比較的新しい治療が、日本で2005年に保険適応されたt-PA療法(血栓溶解療法)です。脳の血管に詰まった血栓を溶解し、血流を再開通させるため、t-PAという薬を点滴します。時間の制約があり、発症後4・5時間以内に治療を始めます。問診や採血・心電図・CT・MRIなど各種検査が必要なため、逆算すると3時間以内に病院に到着する必要があります。臨床データによると、t-PA療法ありの群は、なしの群に比べて3カ月後の死亡を10%減らし、後遺症のない患者を10%増やします。
 脳梗塞の前ぶれである一過性脳虚血発作(TIA)にも注意しましょう。脳卒中と同様の症状が24時間以内に消失し、多くは数分で治まります。放置すると、3カ月以内に5~20%が脳梗塞を発症し、その半数は48時間以内と報告されています。TIA発症1日後に治療を開始すると、脳梗塞の発症は約2%に抑えられますが、20日後では約10%に上がるため、早期の対応が大切です。
 脳梗塞は1年以内に1割、10年以内で5割が再発します。再発予防の薬として、アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞は、動脈硬化による血小板血栓ができるのを防ぐ抗血小板薬を用います。心原性脳塞栓症は、心臓に血栓ができないよう血液を固まりにくくする抗凝固薬を用います。最近登場した新しい抗凝固薬は、従来型と異なり、他の薬や食物との相互作用がなく、合併症である脳出血の発症リスクも減りますが、腎臓の悪い人には注意が必要です。
 脳梗塞の発症リスクは、血圧が高いほど、喫煙本数が多いほど上がり、糖尿病のある人はない人の1・5倍です。心房細動、脂質異常症、虚血性心疾患・末梢(まっしょう)動脈疾患、脳梗塞の既往のある人も治療が必要です。症状がなくても、予防薬の内服でリスクをコントロールしてください。

【脳卒中を外科で治す】

t-PA療法が適さない脳梗塞に
新しい血管内治療を検討

滋賀医科大学脳神経外科

辻 篤司氏

辻 篤司氏

 脳梗塞の急性期治療で、t-PA療法の効果がみられない、あるいは適さない場合があります。そんな時、考慮されるのが血管内治療です。10年から新しい器具が保険適応となりました。
 その一つは、カテーテルという細い管を血管内に入れて、先端がらせん状になった器具で血栓をからめ取り回収するものです。また、詰まった部分まで太いカテーテルを誘導し「煙突掃除」のように血栓を吸引して回収する器具もあります。これらは、比較的大きな血栓を除去することが可能で、心原性脳塞栓症の治療に効果が期待できます。どちらも発症後8時間以内の適応です。
 これらの手技はt-PA療法と比べ、明らかな優位性は確認されておらず、たとえ血管が再開通しても、予後が改善されないこともあります。私のデータでは、重症の脳梗塞の人にこれらの手技を施すと、約8割は血管が再開通しますが、歩いて退院できる人は約4割です。今後はさらにデータを集積して検証し、効果を確認すると同時に課題を克服する必要があります。
 今年7月からは、更に新しい器具による血管内治療も保険適応となります。ステントという金属のメッシュ状の器具で、血栓をからめながら取り除きます。最初にお話しした器具による血管内治療よりも、血栓回収のスピードや能力が優れていると海外では報告されています。今後、より早く再開通する技術開発が求められます。脳梗塞で早期に再開通できた場合の予後は、できなかった場合と比較して明らかに改善します。t-PA療法の適応例にはこれを優先しますが、チーム医療の中でこのような血管内治療も検討されています。
 脳梗塞の慢性期治療は再発予防に尽きます。薬による治療と危険因子となる生活習慣病の管理が欠かせません。一方、症状が軽く、血管の狭窄(きょうさく)がある場合、脳血流を測定する専門的検査(SPECT・PET)により、脳梗塞再発のリスクが高く、手術に適応する人を診断できます。手術方法はさまざまで、例えばバイパス術では、脳血流が低下している部分の血管に頭皮の血管をつなぎ、血液を脳に送りこみます。また、頸部(けいぶ)頸動脈狭窄の場合、カテーテルで狭窄部にステントを挿入し、拡張して留置する血管内治療を行うことも有効です。