脳卒中市民シンポジウム
座長

軽症脳卒中を見逃すな

埼玉医科大学国際医療センター 神経内科 准教授

林 健氏

林健氏

 TIA(一過性脳虚血発作)は、脳卒中の症状が一時的に出て数分から約20分で治まります。しかし2日後までに十数人に1人、3カ月で6人に1人が脳梗塞を起こします。TIAは脳梗塞の7~40%に先立って認められ、適切な治療により、その後の脳梗塞発症を約80%予防できます。症状が消えても安心せず、急いで受診しましょう。
 脳梗塞は入院後の再発が約5%、入院後の症状進行が約20%あり、無治療ではさらに高率になるでしょう。これは軽い症状が続く場合も同じですから、即受診してください。
 脳梗塞発症から来院までの平均時間は12~24時間、3時間以内の到着は3分の1で、軽症ほど遅い傾向があります。来院が遅れるのは、〝脳卒中=頭の発作(頭痛)〟と思っているからでしょう。頭痛はくも膜下出血の特徴ですが、脳梗塞ではわずか数%です。片側の手足の完全なまひではなく筋力の低下、呂律が回らない、言葉がうまく出ないなどが脳梗塞でよくある症状です。頭痛がなく症状が一時的で軽くても、脳梗塞が疑われると認識してください。

脳卒中で物忘れややる気がなくなるの?

埼玉精神神経センター センター長

丸木 雄一氏

丸木雄一氏

 現在、認知症の分類は、アルツハイマー型認知症が6割で、脳卒中に代表される脳血管性認知症は昔より減っています。しかし、脳卒中と認知症は切り離して考えられません。脳卒中の原因となる動脈硬化の危険因子は(1)高血圧(2)糖尿病(3)脂質異常症(4)心臓病(5)高尿酸血症(6)肥満(7)喫煙(8)男性ですが、2000年ごろから、これらは同時にアルツハイマー型の危険因子でもあるといわれ始めました。実際、当センターのもの忘れ外来を受診し認知症と診断された人に、過去に脳卒中を発症しているケースが多くみられます。
 日本で発売されている認知症薬の中には脳卒中を伴うアルツハイマー型認知症に有効と海外で報告されている薬剤もあります。欧米の治験で脳血管性認知症に有効とされる薬もあります。認知症と脳卒中を区別せず治療することで、症状が改善する可能性があります。タイトルの「脳卒中で物忘れややる気がなくなるの?」の答えはイエスです。まひやしびれがなくても、急な物忘れややる気の低下は脳卒中を疑います。すぐに画像検査可能な専門医を受診してください。

脳卒中はリハビリで治すの?

さいたま記念病院 リハビリテーションセンター長

鈴木 英二氏

鈴木英二氏

 脳卒中のリハビリは多彩です。例えば理学療法では、最初は寝たきりから関節や筋肉を動かし、体力的に落ち着けば立ち上がり、まひを補う装具を付けたりして歩行訓練を始めます。作業療法は、上肢機能訓練や生活動作などの応用的訓練をします。言語療法は言葉が出ない、呂律が回らないなどの改善を目指します。嚥下(えんげ)障害は肺炎、水分・栄養摂取の低下、窒息の危険があるため、これらを予防します。
 患者の意欲は回復を促します。手足のまひの回復は1カ月、長くみて3カ月までですが、自主トレを継続する意欲があり、まひが中程度以下の場合、その後も改善が期待できます。高次脳機能障害(言語・記憶・判断力・注意力などの障害)は、意欲があれば数年単位での改善も可能です。歩行・日常生活の維持・改善には体力も重要で、再発予防にもなります。
 最近は、種々の器具を使った筋力の維持・向上や歩行訓練、局所的に筋肉の緊張をやわらげるボツリヌス治療、CI(まひ側上肢集中訓練)、磁気刺激、川平法も効果を上げています。後遺症があっても、グループ活動や行事に参加し、交流や活動により、社会性や生きがいを取り戻すことも大切です。

脳卒中発症から社会復帰まで地域医療連携の役割

越谷市立病院 脳神経外科 部長長

丸木 親氏

丸木親氏

  脳卒中は発症後、急性期病院からリハビリ病院、長期療養病院や老人保健施設などへ転院します。在宅療養では、介護サービスを受けながらかかりつけ医が管理します。こうした複数施設の治療・介護で役立つのが、脳卒中地域連携パスです。患者の状態や必要なサービスなど様々な情報が記入されたもので、各施設での迅速かつ的確な治療・介護に役立ちます。埼玉県は10万人あたりの医師数が一番少ない県ですが、脳卒中に関わる先生の協力のもと、全国でいち早く同パスが統一されました。
 また本県は高齢化が速く、脳卒中や急性心筋梗塞の増加が予想されます。これらは早期の治療が重要ですが、本県は救急車要請から医療機関搬入までの時間が平均41・1分と全国ワースト3位です。受け入れ体制の確保が課題でしょう。
 医療、介護、福祉に関する相談は地域包括支援センターが対応しますが、今後さらに信頼される体制づくりが必要で、患者を地域全体で支えることを目指します。
 そして何より大事なのは、かかりつけ医を持ち日頃から健康を管理すること。脳卒中の予防に王道はありません。

脳卒中患者の社会復帰を助けるかかりつけ医の立場から

植松神経内科クリニック 院長

植松 大輔氏

植松大輔氏

 脳卒中後の経過は人それぞれですが、望ましい最終ゴールは社会復帰です。復職率は約40%といわれていますが、復職を促進する要因は(1)若年で復職に意欲がある(2)ホワイトカラーの職種(3)セルフケアや歩行が自立(4)家族や同僚の支援です。反対に復職を阻害するのは(1)中高年での発症(2)肉体労働を主とする職種(3)多量の飲酒歴(4)重度の片まひ(5)高次脳機能障害の合併(6)長期入院や長期の傷病手当や障害年金の受給です。とはいえ年齢に関係なく、たとえ後遺症が残っても、周囲のサポートやインターネットの交流活動などに励まされ、社会復帰を果たす人が少なくありません。
 かかりつけ医として留意するのは4点。第一に、脳卒中再発予防のための生活指導や投薬を継続すること。第二に介護者との良い関係を作り、多職種(理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカー、臨床心理士、言語聴覚士、義肢装具士など)が協力してサポート体制を整えること。第三に若年者は復職を、高齢者は要介護にならない自立した社会生活を目指すこと。第四に後遺症の程度や個人の特性にあったパーソン・センタード・ケア(person-centered care)の実践です。