脳卒中市民シンポジウム
座長

【脳卒中にならないために】

危険因子の治療と、生活習慣の改善を

東京女子医科大学医学部 神経内科 主任教授

内山 真一郎氏

内山真一郎氏

 脳卒中は、脳の血管が詰まる脳梗塞(こうそく)、脳内の小さな血管が破れる脳出血、脳の表面の血管にできた脳動脈瘤(りゅう)が破れるくも膜下出血に大別されます。日本人の5人に1人が発症する国民病であり、脳卒中の約75%が脳梗塞です。
 脳卒中の危険因子は、(1)高血圧(2)糖尿病(3)脂質異常症(4)心房細動(5)喫煙(6)飲酒(7)メタボリックシンドローム(8)慢性腎臓病(9)睡眠時無呼吸症候群です。これらを一つでも減らすことで脳卒中を予防できます。
 高血圧は脳卒中の最大の要因で、血圧の上昇に伴い発症率が高まります。近年、減塩や降圧療法の進歩から高血圧は減りましたが、食生活の欧米化により糖尿病や脂質異常症、肥満が増えました。放っておくと、脳梗塞や心筋梗塞の原因となる動脈硬化が進みます。不整脈の一種である心房細動も含めて原因となる病気の薬物治療は欠かせません。
 生活習慣の改善も重要です。食事は適正カロリーで栄養バランスよく、塩分を控えて水分は十分にとりましょう。積極的にとりたい食品は、動脈硬化の予防効果があるイワシ、サバなどの青魚、コレステロールの吸収を抑える食物繊維の多い野菜やキノコ類、海藻などです。喫煙は、脳卒中の中で死亡率の最も高いくも膜下出血の発症率を上げ、様々な病気に悪影響を及ぼします。今では禁煙アイテムも多彩なので、強い意志で禁煙しましょう。お酒は1日に日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本、ワインならグラス1.5~2杯が目安です。運動は、1日40分以上歩くと明らかに脳卒中が減少する研究データが最近報告されました。ウオーキングや水泳など有酸素運動を継続しましょう。また、メタボリックシンドロームを起こす最初の原因は内臓肥満です。内臓肥満が高血圧、糖代謝異常(糖尿病)、脂質異常症を引き起こし、動脈硬化が進みます。内臓肥満は食事や運動で予防できるので、基本は生活習慣の改善です。
 脳梗塞の再発予防では、こうした危険因子の管理とともに、血栓(血の塊)ができるのを防ぐため、抗血小板薬や抗凝固薬など薬物療法を行います。なかでも心房細動患者には抗凝固薬が推奨されますが、食生活の制限、様々な薬との相互作用、脳出血の危険性などから他の薬で代用することがありました。しかし最近、この弱点を克服する新しい抗凝固薬が開発されました。高価格がネックですが、治療中の人はぜひ医師に相談してください。

【脳卒中―起こったらどうしよう 診断から治療まで】

治療の基本は薬物療法、開頭手術や血管内治療も

獨協医科大学越谷病院 脳神経外科 教授

兵頭 明夫氏

兵頭昭夫氏

 脳卒中の症状は突然起こります。脳梗塞と脳出血は、半身(顔、上肢、下肢)の脱力感やしびれ、呂律が回らない、言葉が出ない、左右どちらかの視野が欠ける、ものが二重に見える、めまい、平衡障害などです。くも膜下出血はこれまで経験したことのないような激しい頭痛が特徴です。自分や家族の様子がいつもと違ったら、まず「顔がゆがむ」「腕が下がる」「言葉がおかしい」といった症状を確かめましょう。たとえ症状が一時的でも、後に本格的な脳梗塞を起こしかねません。すぐ救急車を呼んでください。
 脳卒中が疑われる患者が専門病院に来院したら、救急処置とともに病歴聴取、臨床検査やCT、MRI、MRAの画像診断、超音波検査などから脳卒中のタイプや重症度を診断します。治療の基本は内科的治療です。血圧を下げるなど安静を保ち、薬物治療を行います。血栓を溶かす薬、血栓ができるのを防ぐ薬、脳の腫れを抑える薬など病状に合わせて投与します。脳梗塞の新しい薬物治療に、tーPAによる血栓溶解療法があります。効果を得るには発症から3時間以内の投与が条件でしたが、今は4時間半以内が推奨されています。検査や診断の時間を考えると、発症後3時間以内の病院到着が必要でしょう。
 割合は少ないものの開頭手術も行います。脳出血は病巣の広がりを防ぐため、たまった血を吸引します。くも膜下出血の脳動脈瘤は、瘤(こぶ)の根本をはさみ瘤の中に血が入らないようにするクリッピング手術を考えます。脳の血管の壁が厚くなり中が狭くなる脳血管狭窄(きょうさく)では、他の血管を脳の血管につなぐバイパス手術で血流を再開させます。首の頸(けい)動脈の狭窄には、血管を切り開いて詰まったものを除去する内頸動脈内膜剥離(はくり)術もあります。
 また、切らない手術が血管内治療(カテーテル治療)です。足の付け根の動脈などから血管内に細い管を入れて、血管の病巣まで進め、道具を使って治療します。脳動脈瘤の内部にコイル状のプラチナを詰めるコイル塞栓術、狭くなった血管を広げる血管形成術や頸動脈の狭窄に対するステント留置術があります。最近、急性期の脳梗塞で太い血管が詰まった場合、先端部に血栓を絡め取って回収する塞栓除去用カテーテルを用いた新しい治療も行われています。さいたま市では5、6カ所の専門病院で可能です。
 脳卒中で障害を受けた神経細胞の回復は困難です。外科的治療は、あくまで症状悪化や再発予防が目的で、予防が最も大切です。