第14回 脳卒中市民シンポジウム
座長

スピードが命 〜内科治療について〜

おさか脳神経外科病院 循環器内科 部長

大山 英郎氏

大山英郎氏

 脳梗塞で脳の細胞が死んでしまう領域をコア、その周辺の死にかけの領域をぺナンブラといいます。発症後、時間とともにペナンブラはコアに変わります。このコアを作らないため、超急性期治療で3時間以内にt-PAという薬による血栓溶解療法を行います。病院到着後、準備に約1時間かかるので、2時間以内に着かねばなりません。コアをより小さくするには、1分でも早く治療を開始します。香川県のt-PAの使用症例数は、脳梗塞の危険度が高まる65歳以上の人口10万人当たりに換算すると、都道府県別でトップでした。とはいえ県内には離島や医師不足の地域があり、県民はこの治療を平等に受けていません。また、急性期治療でペナンブラを助けるには、脳保護治療が24時間、抗凝固治療が48時間、抗血小板治療は5日以内に行う必要があり、脳卒中はスピードが命といえます。
 顔(Face)がゆがむ、腕(Arm)が下がる、しゃべり(Speech)がおかしいといった代表的症状がひとつでもあれば、すぐ(Time)救急車を呼びましょう(act)。これを「act FAST(早く行動せよ)」と呼び、啓蒙(けいもう)キャンペーンをしています。患者さんはすばやく救急要請し、救急隊もすばやく搬送し、病院もすばやく検査し治療を開始することが大切です。

手術で治す脳卒中

高松市民病院 脳神経外科 部長

関貫 聖二氏

関貫聖二氏

 脳卒中のタイプ別頻度は、脳梗塞6割、脳出血3割、くも膜下出血1割で、主に手術するのはくも膜下出血です。くも膜下出血は、脳の動脈の分岐部の壁の薄い部分に長年血流が当たり、血管の一部が瘤(こぶ)となり、何かのきっかけで瘤が破裂して脳の表面に出血することから起こります。検査で未破裂の動脈瘤が見つかっても、将来必ずくも膜下出血になるわけではなく、破裂しやすい条件をもっているか検討します。この動脈瘤の治療は、開頭して瘤の根元をはさむクリッピング手術を第一に考え、それが困難なら、血管にカテーテルを入れて瘤の中にコイルを詰めるコイル塞栓術を検討します。
 脳出血は、高血圧や喫煙、加齢などによる動脈硬化でもろくなった脳の毛細血管が、血圧の変動などで破れ出血します。一度壊れた脳組織の機能は戻りませんが、血腫を取り除くと周囲の組織の二次的障害を防げます。その方法として確実に取れる開頭手術、頭に小さな穴を開け血腫を吸引する方法、数年前から内視鏡による血腫除去も行っています。また脳梗塞の手術は少ないのですが、急性期では最近t-PA治療が無効な場合、カテーテルによる血栓除去が導入され、有効性を検討中です。維持期の再発予防で、首の頸(けい)動脈が高度に狭窄(きょうさく)している場合は、頸動脈内膜剥離(はくり)術やカテーテルによるステント留置手術を行います。

リハビリは重要だ!!

高松協同病院 リハビリテーション科 病棟医長

植木 昭彦氏

植木昭彦氏

 脳卒中のリハビリテーションの流れは、発症後約1カ月の急性期リハビリ、リハビリを主体とする回復期リハビリ、退院後地域に帰りさまざまな施設を利用して生活する維持期リハビリの3段階があります。
 急性期は、廃用症候群を防ぐためより早い時期からリハビリを行います。くも膜下出血や進行性の脳卒中でなければ、発症した日から、関節を伸ばすなど運動を開始します。翌日まで症状の悪化がなければ主治医と相談のうえ座り始めましょう。この時期のリハビリの充実は、在院日数短縮にも直結します。香川県の公的急性期病院はリハビリ職員が少なく、今後の課題でしょう。
 回復期は、寝る、食べる、トイレ、風呂などを分離した生活で、日常生活の動作を改善します。維持期は再来年4月から、リハビリを介護保険のみで行うようになり、リハビリの種類や質が減るかもしれません。職員との訓練だけでなく、日常自分で行うリハビリがより重要になります。お勧めするリハビリが、起立と着席を繰り返す「立ち座り」。1分間に4〜5回のペースで、1日3〜5回に分けて1日合計100〜300回が目標です。リハビリの前後に、まひ側の上肢や手指のストレッチをするのも有効です。これらは必ず職員指導のもと実施してください。

発症から社会復帰 〜地域連携医療〜

三豊総合病院 脳神経外科 部長

正岡 哲也氏

正岡哲也氏

 脳卒中発症後は急性期、回復期、維持期と経過します。香川県ではこの流れのなか、各医療機関や地域スタッフが患者情報を共有し連携を図るため「脳卒中地域連携パス」を用います。パスには患者の基本情報、リハビリの状態、入院前の状態、退院時の評価、主治医や理学療法士、看護師、ケースワーカーなどのコメント、退院時の介護情報など細かく記載します。また回復期病院では、患者や家族の希望、家屋状況など多彩な情報のもと、退院後の介護サービスを考え、スタッフが家族に介護の具体的方法を指導して自宅復帰に備えます。
 維持期は、介護サービスを利用し地域で患者を支えます。その中心となるケアマネジャーが月に1度、利用者宅を訪問し、利用者のADL(日常の生活動作)の状態や利用者・介護者の要望や目標などを香川県共通の「在宅モニタリング用紙」に記録します。この記録により、利用者が脳卒中再発や他の病気で医療機関にかかる際、情報をスムーズに連携できます。口腔(こうくう)ケアも大切なので「歯科パス」も各医療機関や歯科医、ケアマネジャーが共有します。このように香川県では、5〜6年前から医療と福祉のシームレスな連携が始まり、徐々に充実を図っています。

発症から社会復帰 〜脳卒中ノートの活用〜

香川労災病院 脳神経外科 部長

吉野 公博氏

吉野公博氏

 脳卒中の再発予防と健康増進のため使っていただきたいのが「脳卒中あんしん連携ノート」。(社)日本脳卒中協会香川県支部が、北海道支部のノートをアレンジして作りました。内容は記録編と解説編の二つに分かれます。記録編は、かかりつけの医療機関や退院時の基本情報、診療予定、これからのリハビリの目標や計画、退院後5年間の生活記録などを記すもので、医師が5年間の診療記録を記入するページもあります。
 患者さんは皆さん、最初の1年くらいはリハビリを頑張り、減塩など生活習慣の改善に取り組みますが、少しずつ自分に甘くなります。発症の1年から1年半後に、再発する患者さんが多いのはこのためかもしれません。ですからまずは1年の壁を乗り越えるため、このノートで経過を記録し自分の状態を常に意識することが大事です。自分で付けられない場合、周りの方と協力しながら記録しましょう。ノートがあれば、もし再発時に今までかかったことのない病院に行っても、治療がスムーズに運びます。
 解説編は、香川県における脳卒中の医療連携の取り組みなどの説明と、脳卒中の基本知識や薬の情報、再発予防のための生活のヒントなどが記されています。ぜひ積極的に活用してください。