第14回 脳卒中市民シンポジウム
座長

【脳の鍛え方】

作動記憶のトレーニングで脳全体の機能向上

東北大学加齢医学研究所 教授

川島 隆太氏

川島 隆太氏

 人間の大脳は運動をつかさどる前頭葉、触覚をつかさどる頭頂葉、聴覚をつかさどる側頭葉、視覚をつかさどる後頭葉の4領域で構成されています。ここで注目するのは前頭葉の広い部分を占める前頭前野。この部分は思考、意欲、情動など「人間の心の動き」全般に関係します。
 世界各国の心理学データによると、前頭前野の機能は20歳から衰えはじめます。多くの人の脳のMRI画像をみても、脳は加齢により萎縮し機能が低下します。ただ同世代でも、肥満、飲酒・喫煙習慣、高血圧、動脈硬化を多く持つ人ほど萎縮は進みます。反対に図書館や美術館へ行く、本を読む、絵を描くなど知的好奇心に基づいた活発な行動は、萎縮の予防につながります。
 記憶には、長く残る記憶とすぐ消える記憶があり、後者を作動記憶と呼びます。今、会場の皆さんが私の話を瞬時に理解できるのも作動記憶によります。この作動記憶を鍛えるトレーニングを行うと、学習効果で記憶力が良くなり、仕事や家事などすべての日常生活行為がスムーズにこなしやすくなります。また、自分にとってぎりぎりの難しさでトレーニングをすると、トレーニングをしていない他の脳の能力も高まる「転移効果」もあります。さらに最近の研究で、遺伝が指摘されている流動性知能(新しい問題を解決する力)も高まることがわかりました。集中的なトレーニングで脳の体積が増えることも証明されています。

作業記憶

 誰もが生活の中でできるトレーニングの条件は三つ。「作動記憶を使う」「単純かつ容易である」「脳機能に十分負荷がかかる」です。これを満たすのが「読み・書き・計算」です。簡単な問題でも、強い負荷がかかり、前頭前野をはじめ脳の多くの領域が一度に働きます。ただパソコンで文字を打つと負荷が弱いため、手書きがおすすめです。ちなみにテレビを見ている時、前頭前野は睡眠時のようにほとんど働きません。テレビの視聴時間が長い高齢者ほど、アルツハイマー型認知症になりやすいというアメリカの疫学データもあります。
 こうしたトレーニングをさらに検証するため、アルツハイマーの高齢者を対象に専用の教材を開発し、学習療法を行いました。その結果、学習療法をした人はしない人に比べ、前頭前野の機能が維持または高まりました。例えば、脳卒中の後遺症で認知症となり、約9年間コミュニケーションが取れなかった女性は、1年弱の学習療法で笑顔が出てあいさつができるようになりました。これは珍しい症例ではありません。健康な高齢者が専用の学習療法を行うと、脳の機能全般が良くなることもわかっています。

【脳卒中から身を守ろう】

不整脈とTIAに注目、症状が出たらすぐ病院へ

国立循環器病研究センター脳神経内科 部長

長束 一行氏

長束 一行氏

 脳卒中は、脳の血管が詰まる脳梗塞(こうそく)、脳内の血管が破れる脳内出血、脳の血管にできた動脈瘤(りゅう)が破れるくも膜下出血に大別できます。注目されているのが脳梗塞の一つである「心原性脳塞栓症」です。重症になる場合が多く、ノックアウト型脳梗塞とも呼ばれます。この病気の主な原因は不整脈の一種の心房細動です。心臓が規則正しく動かないため、血流がスムーズに流れず心臓内にできた血栓(血の塊)が、血流で運ばれ脳の血管を詰まらせます。心房細動は高齢者に多く、高齢社会が進む今後、心原性脳塞栓症は増えるでしょう。一般市民、介護職、看護師などを対象に、脳卒中危険因子の知識調査を行うと、高血圧や糖尿病などに比べて心房細動の認知度は極端に低く、一般市民はゼロでした。心房細動は脳梗塞の引き金になりますし、予防薬もあることを知ってください。
 TIA(一過性脳虚血発作)も注目されています。一時的に手足のまひなど脳卒中の症状が出て、24時間以内に消失するものですが、これは脳梗塞の前ぶれです。TIA発症後「60歳以上・症状が10分以上持続・糖尿病・脱力を伴う・言語障害」の条件が多いほど、脳梗塞の発症率が高まります。また、TIAを早期に治療するほど、脳梗塞の発症率は抑えられます。TIAを起こしたら、一時的に治ったからといって安心せず、すぐ病院へ行きましょう。

脳卒中予防十か条

 脳卒中の原因はさまざまです。重要な危険因子である高血圧は、治療をすると発症が4割も減るといわれています。糖尿病や心房細動も受診しましょう。コレステロール値の高い脂質異常症も危険です。喫煙とアルコール過剰摂取、運動不足や肥満も改善してください。食事は高血圧を招く塩分、肥満や脂質異常症を招く脂肪を控えめに心がけましょう。特に高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動はほとんど自覚症状がありません。かかりつけ医を持ち、定期的に健康診断を受けましょう。男性は勤務先の健診がなくなる定年後、女性はホルモンの影響で生活習慣病にかかりやすくなる更年期から注意が必要です。脳卒中は予防できるので、適正な治療や生活習慣の改善を行うことが大切です。
 最後に、脳卒中の症状はすべて 「急に」起こります。主な兆候は、半身の手足に力が入らない、半身がしびれる、ろれつが回らない、視界の半分が見えにくい、めまいがして歩けないなどです。さらにくも膜下出血は経験したことのないほど激しい頭痛が生じます。これらの症状が出たらすぐ救急車を呼びましょう。そして本日のシンポジウムで覚えたことをぜひ誰かに伝えてください。