第14回 脳卒中市民シンポジウム
座長

突然起こる脳卒中の症状 脳梗塞の前ぶれにも注意

脳卒中 顔・腕・言葉ですぐ受診!

国立病院機構熊本医療センター 神経内科 医長

田北 智裕 氏

田北智裕氏

 脳卒中とは脳の血管が障害を受ける病気で、大別すると脳の血管が詰まる脳梗塞(こうそく)、脳内の血管が破れる脳出血、脳表面の血管が破れるくも膜下出血の3種類です。共通の症状は突然起こること。1カ月前から徐々に起こるようなことはありません。
 脳表面がダメージを受けるくも膜下出血は、頭痛や嘔気(おうき)・嘔吐、首が硬くなるなどの症状があり、特にこれまで経験したことのないような激しい頭痛が特徴です。くも膜下出血の約8割は脳の動脈瘤(りゅう)の破裂が原因で、動脈瘤の増大に伴い、片方のまぶたが下がる、ものが二重に見えるなどの症状が先行することもあります。
 脳そのものがダメージを受ける脳梗塞と脳出血は、その障害部位により、片方の手足の脱力やしびれ、物の見えにくさ、言葉の出にくさ・理解困難、めまい、ふらつきなどの症状が出ます。
 これらの症状を簡単に覚えるため、米国脳卒中協会のキャンペーン「Act FAST(早く行動せよ!)」の「FAST」を紹介しましょう。「Face(顔)=笑うとき顔の片側がゆがまないか?・Arms(腕)=両腕を上げたとき片方の腕が下がらないか?・Speech(言葉)=短い文章を正確に繰り返すことができるか?・Time(時間)=時間が大事!」というもので、F・A・Sのうち一つでも異常があれば、脳卒中の約8割を拾い上げます。脳は再生しないので、一度ダメージを受けると後遺症が残りやすく、できるだけ早い治療が必要です。
 また、脳梗塞の前ぶれである一過性脳虚血発作(TIA)にも注意が必要です。症状が一時的に出て自然に消えますが、3カ月以内に2割弱の人が脳梗塞を発症し、そのうち半数は2日以内に発症します。もう大丈夫と自分で判断せずに、すぐに受診してください。

症状が出たら一刻も早く! 遅くとも2時間以内に病院へ

時間が勝負! 内科治療

熊本大学大学院 生命科学研究部 神経内科学分野 講師

平野 照之 氏

平野照之氏

 日本の脳卒中は、1960年代は脳出血が約8割でしたが、2006年は脳梗塞が6割と現在は脳梗塞が増えています。ここでは脳梗塞の内科治療を中心にお話ししましょう。
 脳梗塞には、脳の細い血管が詰まるラクナ梗塞、脳や首の太い血管が動脈硬化になり血栓(血の塊)で詰まるアテローム血栓性梗塞、心臓にできた血栓が流れてきて脳の太い血管が詰まる心原性脳塞栓症の3タイプがあります。
 脳梗塞発症直後の急性期は、薬で治療します。一つは病巣を広げないようにする抗血小板療法、抗凝固療法、脳保護療法など。もう一つは積極的な治療で、詰まった血栓を溶かして血流を再開させる、tーPAという薬による血栓溶解療法です。tーPAが投与できるのは発症から3時間以内。病院到着後、検査や準備で1時間かかるため、実際は発症後2時間以内に病院に到着する必要があります。それも1分でも早い方が、治療効果が期待できます。ただtーPAの日本の治療成績をみると、33%の人が社会復帰できる程度に良くなる一方、17%の人は亡くなります。優れた薬ですが万能薬というものではありません。
 脳梗塞の発症後は、早期から再発予防が大切です。その2本柱の一つは危険因子の管理。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、メタボリックシンドローム、慢性腎疾患に対して、食事療法、運動、禁煙、薬物療法などを行います。もう一つは血栓をできにくくする薬による治療。心原性脳塞栓症には抗凝固薬、それ以外の脳梗塞には抗血小板薬を用います。こうした多角的アプローチは、脳卒中全体の予防においても重要です。ちなみに予防効果がもっとも高いのが禁煙。その他降圧療法や脂質管理、血糖管理、生活習慣改善など、総合的に予防しましょう。

手術の適否や方法は専門医とよく相談を

手術で治す脳卒中とは?

熊本大学大学院 生命科学研究部 脳神経外科学分野 准教授

森岡 基浩 氏

森岡基浩氏

 くも膜下出血の代表的な治療は、原因である脳の動脈瘤の出血を止めるため、開頭して動脈瘤の根元をはさむクリッピング手術と、血管にカテーテルを通して動脈瘤の内部にコイルを詰めて塞ぐコイル塞栓術です。後者は開頭しないので希望する人が多いのですが、動脈瘤の形により治療できないケースもあります。また、元気な人に検査で未破裂の動脈瘤が見つかった場合、くも膜下出血を一生発症しないこともあり、治療するかは判断の難しいところです。
 脳出血の手術は、脳の細い血管が破れてできた血腫を取り除きます。開頭血腫除去手術や、特殊なフレームを頭に付け細い管で血腫を吸引する定位脳手術、また最近は内視鏡で患部を見ながら吸引する治療もあります。手術は残った神経を助けることが目的で、一度傷ついた神経は元に戻りません。リハビリで回復するのは、残った神経の働きによると理解してください。また重症で手術不可能な場合もあります。
 脳梗塞の手術は、再発予防のために行います。脳の血管の狭窄(きょうさく)がゆっくり進行すると、一部が軽い脳梗塞になり、一部は血流の悪いまま生き残ることがあります。この血流を改善するため、開頭して血管バイパス手術を行います。また、脳梗塞を引き起こす内頸動脈(ないけいどうみゃく)狭窄症に対しては、頸動脈内膜剥離(はくり)術や血管内治療のステント治療で血流を改善する方法もあります。他の病型が発症後迅速に手術の適否を決めるのとは異なり、脳梗塞では発症後約1カ月以上経ってから、手術の適否を考えます。
 危険性を伴うこともある手術と、手術ほど急に良くならないものの危険性の少ない薬。これらを踏まえ、専門医の話を聞き家族とも相談のうえ、治療法を決めましょう。

多彩なリハビリ医療で廃用症候群を予防

リハビリテーション 早く始めて根気よく

熊本機能病院 神経内科・リハビリテーション科 部長

渡邊 進 氏

渡邊進氏

 廃用症候群とは、病気やけがなどで安静状態が長く続くことにより、心身の機能が低下すること。褥瘡(じょくそう=床ずれ)、筋力低下、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、心肺機能低下、口から食べられなくなる、知的活動の低下などで、ADL(日常生活活動)が低下し、寝たきりを引き起こします。これを予防するのが早期離床とリハビリです。
 早期離床とは「寝・食・排泄(はいせつ)・清潔の場所を分離する」こと。脳卒中発症後の回復期は、点滴などでなく、食卓で口から食べる、おむつや管を外してトイレを使う、ベッド上で体を拭くのではなく洗面所や浴室を使う、一日中パジャマではなく日中は普段着を着るなど、早くからベッドを離れて生活活動を開始します。これにはスタッフ数の確保が必要ですが、熊本県では最近スタッフも増え、こうした取り組みが浸透しています。
 リハビリとは、障害があってもその人らしくいきいきとした生活をするための訓練。リハビリ病棟で自宅復帰を目指す回復期は、医師、看護師、介護福祉士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、義肢装具士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、歯科衛生士、薬剤師などのスタッフがチーム医療を行います。この時期は、訓練室のリハビリだけでは不十分で、生活そのものがリハビリと心して取り組みましょう。
 自宅に戻った後の維持期は、寝たきりを予防し自立生活と介護負担の軽減を支援するため、介護保険サービスを適切に利用しましょう。外出せずベッドから出ない日々が続くと、廃用症候群を生じます。特に一人暮らしの人は、閉じこもらないよう注意が必要です。リハビリ医療の向上には、急性期、回復期、維持期の流れを地域でさらに整備し充実させることが重要です。