第13回 脳卒中市民シンポジウム
座長

「脳卒中の治療と予防の基本的理解」

発症後3時間以内の初期治療で劇的に改善

峰松 一夫 氏 国立循環器病研究センター副院長 日本脳卒中協会理事

峰松一夫氏

 脳卒中は脳の血管が詰まる脳梗塞(こうそく)、脳内の血管が破裂する脳出血、脳表面の血管にできた動脈瘤(りゅう)が破裂するクモ膜下出血の3種類に大別されます。日本では、昔は死因の1位でしたが現在は3位です。しかし高齢化に伴い、患者数は脳梗塞を中心に増え続けています。まひや寝たきりなど重篤な後遺症が残ることもあり、重度要介護となった原因として脳卒中が最も多く約4割を占めます。脳卒中の医療費や介護費は今後さらに増えると考えられ、患者さんやご家族はもちろん、社会的負荷の点からも深刻な疾患といえるでしょう。
 脳卒中の予防は、素地となる病気の治療や生活習慣の改善が重要です。(1)高血圧(2)糖尿病(3)不整脈(4)たばこ(5)アルコール(6)高コレステロール(7)塩分・脂肪のとり過ぎ(8)運動不足(9)太り過ぎが脳卒中予備軍で、当てはまる数が多いほどリスクが高まります。なかでも高血圧と糖尿病は大きな危険因子です。例えば、高血圧の人が降圧療法を受けると発症率は約4割低下、糖尿病の人が脳卒中や心臓病になる危険性はそうでない人の3倍以上というデータがあります。また、不整脈の一つ、心房細動の人は、血液が固まるのを防ぐ薬で発症が約7割抑えられるので、早めに受診しましょう。
 脳卒中の約8割を占める脳梗塞は、ここ数年の間に初期治療が進歩しました。05年に保険適応となった血栓溶解剤(t-PA)を、発症後3時間以内に投与すれば血流が再開し劇的に改善されます。ただ来院後、さまざまな検査や診断を要するため、発症から2時間以内に専門病院へ到着しなければなりません。
 そこで覚えていただきたいのが、突然起こる脳卒中の症状です。片方の手足や顔半分にまひが出る、ろれつが回らない・話が理解できないといった症状はよく見られます。立てない・ふらふらする、片方の目が見えない・物が2重に見える・視野の半分が欠ける、経験したことのない激しい頭痛もそうです。おかしいと思ったらすぐ病院へ行きましょう。

「脳卒中のリハビリテーションの進歩と将来展望」

脳に働きかけて機能を回復

里宇 明元 氏 慶應義塾大学リハビリテーション医学教授 日本リハビリテーション医学会理事長

里宇明元氏

 脳卒中のリハビリの役割は三つです。第一に予防で、まひの部分だけでなく健常な部分が衰えるのを防ぎます。発症後、早い時期から座る練習をするのはこのためです。第二に機能回復。まひや失語症など障害を治療して回復を促します。第三は機能代償。補助具の利用や生活環境の整備により、障害を補います。機能回復と機能代償へのアプローチは、専門職がチームになってうまく絡み合って進めることが大切です。患者さんの機能向上や生活の自立だけでなく、ご家族も含めた生活の質の向上と社会参加促進のため、すべての時期でさまざまなリハビリを行います。
 リハビリは大きく進歩しました。特に機能回復の面で、脳の変化に働きかける新しい治療が開発されつつあります。歩行障害には、ハートウオーカーという歩行器により正しい姿勢で足を踏み出す訓練や、良い方の足をわざと使いにくくして、まひの足を動かそうとする義足療法などがあります。また慶應義塾大学では、リハビリをしても歩けない患者さんに対して、適切に評価・治療するプロジェクトも進めています。
 手のまひに対しては、従来はまひのない方の手を使って生活動作を行うリハビリが中心でしたが、最近はまひした手の治療も試みられています。その代表が、まひしてない手を抑制してまひの手を集中的にトレーニングするCI療法です。しかし、多大な時間と労力が必要なため、日常生活で電気刺激装置を装着するHANDS(ハンズ)療法を開発し、効果をあげています。ただこの療法は、筋肉が動く時に出る電流をとらえるので、完全まひの手には向きません。そこで期待を寄せるのがBMI療法です。例えば、脳の活動が伝わるヘッドセットをつけて念じただけでロボットアームを動かす、といった技術を治療に応用し、重度のまひの回復を目指しています。
 これらの実用化には、脳を読み取る技術やロボット技術の進化、在宅や地域で使うための小型化が必要です。研究をさらに進め、脳卒中の障害の低減や訓練の支援に役立てていきます。