第12回 脳卒中市民シンポジウム

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座長:中屋久長(日本脳卒中協会理事、高知リハビリテーション学院 学院長)

行政の立場から

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北澤 潤 栃木県保健福祉部長

 栃木県は脳卒中の死亡率が高く、2005年のデータでは全国で男性がワースト3位、女性はワースト1位です。40年前から死亡率は下がってきていますが、全国平均には及びません。栃木県が10年前から進めている脳卒中発症登録事業に登録された約5万件をみると、脳梗塞が7割弱を占め、70歳以上の割合が増えています。この他にも県では、食生活の改善や健診受診の指導など脳卒中の1次・2次予防を中心に様々な対策に取り組んでいます。最近では、脳卒中救急患者搬送マニュアルや県の保健医療計画を作成し、広く県民に周知しました。
 今年度もいろいろな事業を予定していますが、その一つが機能別医療機関向けポスターです。例えば脳卒中の急性期、回復期など、来院する病院はどの病期に対応する病院なのか、来院者がわかるよう医療機関に掲示します。今後は1次・2次予防に加え、重症化防止や再発予防などの3次予防にも取り組むとともに、心疾患や糖尿病対策も含めた生活習慣病対策を推進します。また、昨年度策定した県の保健医療計画(5期計画)に基づき、県民へ情報を提供するとともに、地域連携パスの活用など医療体制を整備します。

医療側の立場から

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竹川 英宏 獨協医科大学神経内科講師・脳卒中部門長/日本脳卒中協会栃木県支部事務長

 栃木県は約2年前まで、脳卒中の発症後3時間以内に来院する患者の割合が日本一少なく、救急車での来院も少ない現状がありました。より多くの患者を救うためには、救急医療の現場で、救急救命士が脳卒中の判断、血栓溶解薬適応の判断を迅速に行う必要があり、医師や看護師の適切な初期評価も求められます。とはいえ、医師も救急救命士もそうした教育を受けていないのが現状です。
 そこで日本臨床救急医学会と日本神経救急学会により、脳卒中の病院前評価と来院後の評価を学ぶシミュレーション(ISLS/PSLSコース)ができました。医師、看護師、救急救命士、リハビリのスタッフなどの医療従事者が受講対象で、実際の流れに沿ってシミュレーションしながら学びます。栃木県ではこれまで3回開講し79人が受講。最近は、救急救命士が搬送時に脳卒中の疑いが強い、t—PAの適応がありそうといった迅速な判断ができ、救急外来での受け入れ体制もよりスムーズになるなど、成果は確実に出ています。こうした研修システムの推進で、数年後には栃木県の救急医療体制はさらに改善すると期待しています。

脳卒中地域医療連携の立場から

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森山 俊男 栃木県医師会塩原温泉病院 副院長

 近年、高い医療水準確保のため、病院は専門性を高める一方「専門ゆえの間口の狭さ」が問われています。社会制度として医療、介護、福祉の分業化も進み、縦割りの弊害も否めません。今〝連携〟という視点から、専門性を総合的に支えるシステムが地域医療に求められています。それに応えて生まれた連携パスは、治療・リハビリ・再発予防・介護の流れを、複数の専門施設と医療スタッフが情報を共有し診療の効率化を図る「地域完結型医療」を支えるツールです。すでに栃木県内の複数地域で運用が開始され、普及が進んでいます。
 連携パスでは、患者や家族に転院の不安を抱かせないためにも、今後の治療計画を提示し協力体制を築くことが重要です。また医療と介護の継続性も問題です。例えば回復期に病院でADL(日常生活動作)訓練ができて退院しても、介護保険サービスの開始が遅れたり、ケアマネジャーと医療現場で情報共有が十分なされていなければ、病院で得た能力を失いかねず廃用症候群も心配です。この回復期から維持期への不連続を補うため、今後は介護も包括した循環型の連携パスの仕組み作りが必要でしょう。

急性期リハビリテーションの立場から

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古市 照人 獨協医科大学リハビリテーション科 教授

 脳卒中は早期から集中的対応が求められ、リハビリ専門医によるチームアプローチも重要です。特に急性期のリハビリは、できるだけ早い時期から開始します。歩行などの機能訓練は、リラックスして正しいパターンをゆっくり繰り返します。体の誤った反応を引き起こさないため、長時間ではなく時間を分散して短時間を頻回に行うと良いでしょう。リハビリに欠かせない杖や装具は、正しいフォームを保つための訓練用道具として積極的に使います。例えば、少し歩けるようになったからといって杖(つえ)や装具を手放すと、体を傾けた歩行フォームとなり、誤った訓練になってしまいます。高名な野球選手には、ひじに強いゴムを使った装具を身につけ、素晴らしい打撃フォームで成績を上げている選手もいますが、それと同じ考えです。リハビリにあせりは禁物です。「急がば回れ」の精神で取り組みましょう。
 リハビリには継続した地域医療や福祉が大切です。後遺症のレベルによって介護保険制度を利用しますが、同制度の該当者でない40歳未満の人は障害者自立支援法によるサービスを考えてください。

回復期・維持期 リハビリテーションの立場から

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杉田 之宏 リハビリテーション花の舎病院 院長

 脳卒中は急性期、回復期、維持期と分かれますが、リハビリは各期をスムーズに移行せねばなりません。当院のような回復期に特化したリハビリ病棟は、急性期が済んだ早い時期からリハビリに集中でき、維持期に移行の際は社会復帰のため生活環境や介護保険をサポートするなど、広範囲の役目を担います。またリハビリによる生活機能向上、廃用症候群や再発予防のため、地域完結型のリハビリネットワークが求められており、その中心的存在でもあります。
 報告されたあるデータでは、回復期のリハビリ効果は85%の患者で改善、著明な改善が見られた患者は55%です。当院調べでは、軽度から重度の障害までリハビリ効果があり、リハビリ量が多いほど改善度が高まりました。リハビリの集中的な継続がいかに大切かおわかりでしょう。アメリカのデータでも、リハビリ専門病棟に入った場合とそうでない場合、前者の方が死亡率、介護依存度、施設入所率が低く、自宅復帰率が高いことを示しています。
 00年から回復期リハビリ病棟の整備が進んでいます。栃木県内における今後の普及にも期待しています。