第12回 脳卒中市民シンポジウム

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座長:中屋久長(日本脳卒中協会理事、高知リハビリテーション学院 学院長)

「脳卒中の内科的治療」

かかりつけ医を持ち 発症後は速やかに対応

小松本 悟 足利赤十字病院 院長

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 脳卒中は血管が詰まる脳梗塞(こうそく)、細い血管が破れる脳出血、脳動脈瘤(りゅう)が破れるくも膜下出血に大別され、約8割が脳梗塞です。脳梗塞には、脳の深部の細い血管が詰まるラクナ梗塞、脳や頸(けい)部の太い血管に血栓ができるアテローム血栓性脳梗塞、心臓の中の血栓が脳に流れて詰まる心原性脳塞栓症があります。
 脳梗塞の診断と治療は、早いほど結果が期待できます。脳の神経細胞の保護、詰まった血栓を溶かす、血液の凝固を防ぎ流れやすくするといった内科的治療があり、脳卒中専門病院での計画的な治療が望まれます。特に血栓溶解薬(t—PA)は発症から3時間以内の投与が有効です。救急病院の当院では、医療チームで共通のカルテを認識する脳卒中地域連携クリティカルパス(連携パス)により24時間体制で対応し、今後は病院到着後60分以内の治療開始を目指します。
 脳卒中は生活習慣の改善で予防できます。脂質異常症(高脂血症)、高血圧、糖尿病は気づきにくく、また重なりやすいことでメタボリック症候群を引き起こし、脳卒中の大きな危険因子となります。これらの治療には、かかりつけ医を持つことが推奨されます。当院の調べでは、かかりつけ医を持つ人は持たない人に比べて、救急車の使用率が高い、発症後の来院が早い、入院期間が短い、自宅への退院率が高いなど多くの利点がありました。体の片側に力が入らない、言葉が出ない、片目が見えないなど、脳卒中の初期症状を自覚したら、即かかりつけ医に相談するか救急車を呼びましょう。

「脳卒中の外科的治療」

より安全となった手術で早期診断と二次災害予防を

河本 俊介 獨協医科大学脳神経外科 准教授

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 脳卒中の外科的治療は、血管を外側から治療する開頭手術と、血管の内側にカテーテルを通して治療する血管内手術に大別されます。
 一度壊れた脳細胞は手術で再生できないため、脳梗塞では予防的治療が主流です。アテローム血栓性脳梗塞を引き起こす頸動脈狭窄(きょうさく)症は、従来頚部を切開してアテロームを取り除きましたが、最近では、血管の狭窄部分をステントという器具で押し広げるステント留置術があり、局所麻酔で体への負担が少なく行えます。血管狭窄が進み詰まった場合、血管内治療は不適応で、本人の頭皮の血管などを使って新しい血管を作るバイパス手術が可能です。
 脳出血は、脳組織が破壊されるもので、外科的治療の役割は脳の二次的な損傷を抑えることに限られます。開頭により、または小さな穴から細い針を用いて、脳を圧迫している血腫を除去する治療が有効な場合があります。くも膜下出血は、破裂した脳表面の動脈瘤を再破裂予防のため閉塞させます。開頭して、動脈瘤をクリップで留めるクリッピング術や、血管内手術で動脈瘤の内部を塞(ふさ)ぐコイル塞栓術があります。
 開頭手術中、血管の状態を確認する方法として、蛍光血管造影や神経内視鏡など様々な方法で安全を確認できるようになったため、正常の血管のトラブルによる後遺症が発生する心配はきわめて少なくなりました。脳卒中の外科的治療は、早期診断と二次災害の予防が中心です。ハードウエアと手術技術の進歩で、より安全で確実な治療が可能になったとご理解ください。

「脳卒中のリハビリテーション」

リハビリの目的は日常生活のできる機能回復

船越 政範 とちぎリハビリテーションセンター 医長

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 脳卒中で年間13万人が死亡し、寝たきりの原因約4割が、脳卒中の後遺症によるものです。健康管理で発症を予防し、救急医療で死亡率を下げ、リハビリで身体障害を軽減することが課題です。
 脳卒中の代表的な症状は、右脳の損傷による左半身の運動障害、左脳の損傷による右半身の運動障害と失語症で、その他認知症、失認、失行、抑うつ、しびれ、痛み、便秘など多種にわたります。損傷部位により個々の症状は異なるため「オーダーメード」のリハビリプログラムが必要です。
 リハビリの大きな目的は、歩行の自立や日常生活に支障のない機能回復です。まず急性期は、廃用症候群を予防します。高齢者ほど予備力が小さいため、可能な限り早期に行います。1カ月寝たきりになると、本来できるはずの起立が不可能となり、廃用症候群の改善に2~3倍の時間がかかるといわれています。次に回復期は、医師の診断のもと集中的にリハビリを行い、早期に最大の機能回復を目指します。そして維持期は、それまでに獲得した機能の長期的な維持に努めます。自宅退院の場合、食事と排泄(はいせつ)が自力でできるかがポイントです。
 チーム医療も重要です。医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、医療ソーシャルワーカー、装具士などが専門性を発揮し、効率的な治療体制を整えるべきです。またリハビリは万能でないため、インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)を受け、ご家族や医療スタッフとともに頑張りましょう。

「脳卒中予防には食事が大事」

塩分と脂肪のとり過ぎ太り過ぎにも注意

鈴木 ひろみ 済生会宇都宮病院 脳・循環器センター神経内科 医長

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 脳卒中の背景には、運動不足、過度の飲酒、喫煙などの生活習慣があり、食事も大きな原因です。最大の危険因子は高血圧ですが、食塩を多くとるほど血圧が高くなる傾向があります。1日の食塩摂取量の目安は、高血圧の人で6グラム未満。減塩のコツは(1)うす味を心がけ酸味や香りで味つけに工夫する(2)新鮮素材を選び加工品は控える(3)めん類の汁を残す(4)塩分排泄を促すカリウムを含む果物や野菜をとる(腎機能障害の人は除く)(5)外食や加工食品は栄養成分表示に注意することです。
 また、動物性脂肪のとり過ぎは脂質異常症、メタボリック症候群、肥満、脳梗塞の原因です。コレステロール値が高いほど危険性は高まるので、卵の黄身や肉の脂身は控えめに、牛乳やヨーグルトは低脂肪のものを選びます。青い魚は血栓予防効果のある成分も含まれるので、普通に食べて大丈夫です。食物繊維にはコレステロールの吸収を抑える働きがあるので、野菜やキノコ、海藻を積極的にとりましょう。
 太り過ぎも脳梗塞を招きます。標準体重と比べてBMI30以上の高度肥満は、危険性が2~4倍高くなります。特に内臓脂肪型肥満や脂質異常症の人は危険です。標準体重まで減量しなくても体重の5%減量するだけで、血液所見は改善しやすくなります。心原性脳塞栓症の予防薬であるワルファリンカリウムを内服中の人は、薬の作用を弱めるビタミンKが多く含まれる納豆、青汁、クロレラは避けましょう。緑黄色野菜は大量に摂取しなければ問題ありません。(第2部パネルディスカッションへ