−もくじ−

 

  どのくらいの頻度で痴呆は起こるか?

  脳卒中による痴呆にはどんなタイプがあるか?

  症状は? どのようにして診断するか?

  なぜ痴呆になるのか?

  どんな治療をするのか?

  血管性痴呆の家族介護のポイント

 


どのくらいの頻度で痴呆は起こるか?

愛媛大学 看護学科臨床看護学
教授 博野 信次
(元 兵庫県立高齢者脳機能研究センター地域医療室長)
 

○ 脳卒中と痴呆

 脳卒中とは脳の血管の病気により生じる脳の障害(脳血管障害)です。脳血管障害には脳血管の狭窄や塞栓による梗塞、あるいは脳血管の破綻に伴う脳出血やくも膜下出血があり、原因となる血管の病気には様々なものがあります。本来、「卒中」という語には「突然の発症」という意味がありますが、現在では発症が突然であるか否かを問わず、全ての脳血管障害が脳卒中という用語で呼ばれています。

 脳の中でも脳卒中が最も起こりやすいのは大脳です。大脳は運動機能や感覚機能の中枢であるとともに、言語・記憶・計算・判断といった様々な知的機能が存在する精神機能の中枢でもあります。これらの機能は、それぞれ大脳の特定の部位に散らばって存在しています(機能の局在)。脳卒中により大脳が障害されると、障害された部位に従って、そこにあった機能が障害され、後遺症として残ります。例えば、運動中枢が障害されれば麻痺が残り、言語中枢が障害されれば言語機能の障害(失語症)が残ります。痴呆もそのような後遺症の一つとして生じます。

○ 痴呆とは

 痴呆とは、一度発達した知的機能が、なんらかの脳の病気が原因で、病的に低下した状態を指す医学的な用語です。ですから、正常老化による知的機能の低下は、痴呆とは言いません。また痴呆は、病気の名前ではなく、あくまでも病気によって生じた病的な状態であり、痴呆を生じる病気を総称して痴呆症、あるいは痴呆性疾患と呼びます。知的機能(認知機能)には記憶、見当識、注意や集中、計算、言語、道具の使用、学習、思考、判断などがあります。痴呆の診断基準や定義には様々なものがありますが、一般には、このうち少なくとも2つ以上の機能が障害されていることが必要とされています。この中でも記憶障害の存在が最も重視あるいは必須とされています。また単に複数の認知機能が障害されるばかりではなく、これらの障害により社会的・職業的機能、あるいは個人の日常生活に支障が生じる程度の障害が必要とされています。脳卒中はアルツハイマー病とともに痴呆を起こす重要な原因疾患、すなわち痴呆症のひとつで、脳卒中が原因で生じた痴呆は血管性痴呆と呼ばれています。

○痴呆の頻度(有病率)

 わが国では1970年頃から、多くの自治体で痴呆の有病率に関する疫学調査が行われています。その結果、現在の65歳以上人口における痴呆の有病率は大体7% 程度であり、人口の高齢化とともに増加していき、2025年には約10%となることが予測されています。従来わが国では、多くの欧米諸国と異なり、血管性痴呆の相対的な割合がアルツハイマー病よりも多く、血管性痴呆は最も多い痴呆の原因であるといわれてきましたが、最近では欧米と同じくアルツハイマー病の方が多いという研究が多くなってきています。例えば、東京都ではほぼ同じ方法で在宅の高齢者の痴呆の有病率の疫学調査をくり返し行っていますが、痴呆全体の有病率は大きな差がないにも関わらず、1980年には血管性痴呆の有病率がアルツハイマー病のほぼ2倍であったのが、1995年には反対にアルツハイマー病の有病率の方が血管性痴呆よりも多かったことが示されています。これには、後期高齢者の増加によりアルツハイマー病の有病率が増えた、あるいは、診断能力が高くなり従来は血管性痴呆や原因不明の痴呆と誤って診断されていたものを正しくアルツハイマー病と診断できるようになってきた、などの種々の理由が考えられますが、血管障害の危険因子の認知とそのコントロールの必要性の周知と実施により、重篤な脳血管障害の発生率が減少してきたことによることも考えられます。血管性痴呆はアルツハイマー病と異なり、ある程度予防が可能であるため、適切な一次予防、二次予防を行っていくことが大切です。

  


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