−もくじ−

  概論・薬物療法

  脳神経外科的治療

  漢方医学からのアプローチ

  リハビリテーションの観点から


概論・薬物療法

住友病院神経内科主任部長 宇高不可思
住友病院名誉院長(日本脳卒中協会名誉会長)亀山 正邦

<はじめに:痛みとしびれについて>

 脳卒中後の痛みとしびれは、「脳卒中何でも電話相談」で寄せられる後遺症に関する相談の中で最も多い症状とのことです。今回は、この症状の概要と薬物療法について述べさせて頂きます。

 医学的にみると、痛み(疼痛)とは、外部から身体に有害な刺激が加わっていることや、体のどこかに炎症や圧迫などの異常が生じていることを知らせる警告症状で、生きていくために欠かせない重要な症状です。しかし、一方、痛みは不快感、苦痛を伴い、長く続くと精神的に参ってしまいます。その意味では有害な現象でもあるわけです。

 「しびれ」も痛みと同様、感覚を伝える神経経路や感覚中枢のどこかに何らかの異常があることを示しています。しびれには、感覚が麻痺して痛みや温度感覚などを感じなくなる「感覚鈍麻あるいは感覚消失」と、じんじんする、びりびりするといった、異常感覚とに大別されます。脳卒中では何れのタイプのしびれも出現しますが、痛みと同様に苦痛を感じるのは後者ですので、これについて触れます。

<脳卒中後の痛みについて>

 ひどい痛みは、不眠、食欲低下、抑うつ状態、ノイローゼ状態などの原因となり、生活の質(QOL)の低下、リハビリテーションの遅れなどをきたし、回復を悪くするので、痛みがあればなるべく早くそれを軽くする努力が必要です。

 脳卒中後の痛みは、麻痺に関連した末梢性疼痛と、感覚の中枢が障害されて生じる中枢性疼痛、および、偶然合併した他の原因による痛みに大別されます。

<脳卒中に関連した末梢性の痛み>

 麻痺のある手足の筋肉痛、骨や関節の痛みとして、拘縮に伴う痛み、肩手症候群、肩関節周囲炎などがあります。拘縮に伴う痛みは、関節を動かそうとすると痛みが強くなるのが特徴です。肩手症候群とは、かなり強い麻痺のある側の肩と手の強い痛みをきたす状態で、手の甲は腫れ、熱をもっています。交感神経系の異常によって生じるらしいことがわかっており、抗炎症薬を含む軟膏を塗ったり、副腎皮質ステロイド薬を短期間内服することで良くなります。麻痺のある側に肩関節周囲炎(五十肩)を起こして痛むこともあります。以上は麻痺のある側の痛みですが、麻痺がない側の手足が過剰に使用されて痛むこともあります。何れも整形外科、リハビリテーション科などで適切な処置をしてもらえます。

<中枢性疼痛>

 末梢性の痛みに比べて頻度は低いのですが、より苦痛を伴い、難治性で厄介なのが中枢性の痛みです。脳卒中の病変が直接の原因となって痛みをきたすもので、視床出血や視床梗塞による視床痛のほかに、大脳の出血や梗塞による中枢性疼痛、脳幹病変による中枢性疼痛なども知られています。

 痛みを感じとるセンサーは体中至る所に張り巡らされています。その信号は末梢の感覚神経のケーブルを通り、脊髄を経由して脳の視床というところで情報処理され、最後に大脳皮質の感覚中枢で痛みとして感じられると考えられています。普通の痛み、すなわち末梢性の痛みは痛みセンサーの刺激で生じますが、中枢性の痛みの場合は、手足の末梢には痛み刺激が加わらないのに、視床や大脳の感覚神経の情報処理の異常のために、いわば「脳の中で」痛みを感じてしまうわけです。したがって、痛みが強くても、脳卒中の再発を心配する必要はありません。

 脳の中の病変で痛みが生じることを初めて報告したのはドイツの有名な医学者(Eddinger,1891)で、100年余り前のことです。その患者さんは視床出血のあと耐え難い痛みにおそわれて自殺した方でした。中枢性疼痛は他人にはなかなか理解してもらえない苦痛で、意外と知られていません。このため、適切な治療を受けられず、苦しんでいる方が少なくないものと思われます。

 痛みは、脳卒中の発症直後から起こることもありますが、多くは何ヶ月かしてから始まります。半身、特に手足のうずくような耐え難い痛みで、後で述べるしびれを伴うこともしばしばあります。気分、天候(曇天、降雨の前にひどくなる)、気温(寒冷で悪化)の影響を受けやすく、刺激でひどくなるのを防ぐため、手袋や靴下を常時使用している方をよくみます。普通の痛み止めの薬は無効です。抗うつ薬、抗けいれん薬などの中に有効なものがあり、試行錯誤的に色々使ってみます。大抵の場合、半分くらいの程度にまで改善します。

<脳卒中とは別の原因による痛みの合併>

 変形性脊椎症、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症、脊椎の圧迫骨折、肋骨骨折、変形性関節症、リウマチ性関節炎など、頻度の高い様々な病気による痛みが脳卒中に合併していることもあります。特に高齢の方、転倒した後に生じた場合には注意が必要です。

MTI1

▲小さな視床梗塞(矢印)で半身のしびれをきたした方の脳MRI

MRI2

▲内頚動脈の閉塞による大脳の脳梗塞(矢印)のために半身のしびれをきたした方のMRI

いずれの方も抗うつ薬の内服で症状はかなりよくなった。

 

<脳卒中後のしびれについて>

 脳卒中後のしびれが、麻痺のある側の手足、体や顔、口の周りなどに常時感じられる場合は、まず、中枢性疼痛と同じ現象、すなわち、中枢性のしびれと考えて差し支えありません。中枢性の痛みとしびれが同時に感じられる方が多いようですが、痛み、しびれのどちらか単独のこともあります。しびれの性状は、ひりひり、じんじん、びりびり、ぴりぴり、などと表現されます。しびれも、常に感電させられているような、痛みとはまた違った不快感があり、痛みの場合と同様に精神的に参ってしまうことが多いようです。重要なのは写真に示しますように小さい梗塞でも半身の非常に不快なしびれを起こすことがあるということです。普通のCTで異常なしとされてしまうこともあるのではないでしょうか。治療には中枢性の痛みの場合と同様の薬が有効です。もっとも、完全にしびれが止まることは難しく、半分くらいに減らすことを目標に治療を行っているのが現状です。

 その他、頻度は少ないですが、脳卒中以外の原因でしびれを感じる場合もあります。変形性脊椎症による末梢神経の圧迫、糖尿病など内科疾患による手足の末梢神経障害、手足の末端の循環障害などが原因の可能性もあります。これらの場合は脳卒中にかかるより前からしびれがあるのが普通です。

<おわりに>

 脳卒中後の痛みとしびれと申しましても、色々な原因があり、治療もそれぞれ異なります。特に難治性の場合は、専門医による診断と治療が好ましいといえます。痛みを我慢することも必要ですが、精神的に参ってしまわないよう早めの治療が必要であることを強調したいと思います。

  


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