−千里ライフサイエンス市民公開講座における講演抄録−

●と き 1997年7月19日
●ところ 千里ライフサイエンスホール

国立循環器病センター名誉総長 
日本脳卒中協会会長 山口 武典

−もくじ−

  脳卒中がおこったらすぐ入院

  脳卒中がおこったらどうする?

  脳卒中の前触れ症状

  脳卒中を予防するにはどうしたらいいか


脳卒中がおこったらすぐ入院

脳卒中とは

 脳卒中とは「突然悪い風にあたって倒れる」という意味であり、その症状は意識障害、運動障害(半身が動かなくなる)、感覚障害(半身の感覚が鈍くなる)、平衡障害(ふらつき)、けいれん(大脳皮質が障害された場合)、視野障害(後頭部が障害された場合)、視力障害(眼の動脈が詰まった場合)、頭痛(出血した場合)、痴呆(多発性の脳卒中の場合)などがあります。症状としては、運動障害(片麻痺)が最も多くみられます。

 脳は各部分の働きが異なり、やられる場所によって症状が異なります。例えば、運動の中枢がやられれば反対側の半身(右脳であれば左半身)の麻痺が、感覚の中枢では反対側の半身(右脳であれば左半身)の感覚障害がおこります。運動性言語中枢がやられると他人の言っていることを理解できても自分ではしゃべれなくなります。感覚性言語中枢がやられると他人の言っていることが理解できなくなります。

 大脳からの運動の指令は延髄というところで交叉しており、そのために反対側の麻痺になるわけです。

 脳卒中は脳の血管が破れるか詰まるかのいずれかにより、脳に血液が届かなくなり、脳がやられてしまうことによっておこります。脳は酸素の大食漢であり、短時間でも血流が途絶えるとやられてしまいます。脳は重さでは体重の1−2%しかありませんが、全身が必要とする酸素の20%以上を消費するのです。

日本の脳卒中の現状

 死亡原因では第2位で、年間人口10万人当たり118人が脳卒中で亡くなり、死亡総数の16%にあたります。そして、入院の原因としても第2位で、脳卒中患者の平均在院日数は119日と極めて長いのです。

 更に問題になるのは、寝たきり老人の約4割、訪問看護サービス利用者の約4割が脳卒中患者であり、国民の医療費の約1割、1兆8千億円が1年間に脳卒中のために使われています。

脳卒中の種類

 脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分けられます。脳梗塞とは脳の動脈が詰まって血の流れが悪くなり、脳がやられてしまうものです。昔から、脳溢血という言葉がありますがそれは「血が溢れる」、つまり脳出血の事です。

脳卒中の原因

 脳梗塞には3つのタイプがあります:

1)大きな動脈の動脈硬化によって血栓が出来て詰まるもの。
2)心臓に出来た血栓が流れて来て詰まるもの。
3)脳の細い動脈が高血圧のために細くなって詰まってしまうもの。

 ひどい高血圧の状態が長く続きますと、血管が壊死(腐った状態)になり、破れてしまい、脳出血がおこります。破れるほどのひどい高血圧でなければ詰まってしまいます。このように細い動脈の病変による脳梗塞と脳出血は親戚の関係にあります。

 くも膜下出血は、脳の大きな動脈に出来た瘤(動脈瘤)が破れて起こります。くも膜下出血は動脈の分かれ目の所にできた瘤が破れたものです(先天的なものだろうといわれています)。血圧が高いといつもここに圧がかかり、だんだん大きくなったり、天井の部分が薄くなってきて、ついに破れてしまいます。

脳梗塞のCT像

 

心臓に出来た血栓が脳に飛んで来てそして脳梗塞を起こした患者さんのCTです。

 これは、脳を頭の真ん中あたりを1cmの厚さで水平に切った写真です。黒くなっている部分が脳梗塞です。

 これは右の半球にあり、この患者さんには左の片麻痺がありました。CTを見せられた時は、やられたところが黒い所かだったか、白い所だったのか位まで覚えておいて頂くと、後から他の病院においでになった時に、そこの医師が「この方は脳出血だったのか、脳梗塞だったのか」、という判断するのに大変役に立ちます。

 

心臓の血栓による脳梗塞

これは、心臓の超音波検査の写真です。左心房の中にこんな血栓があるのが、超音波診断で分かります。これがはずれて、大動脈の方に流れて行きますと、脳に引っかかる事がしばしばあります。

脳出血のCT像

 写真の上段は脳出血急性期のCTで白いところが出血です。

 2週間から1ヶ月経ちますと、この血液は吸収されてしまい黒くなってしまいますので、それ以後に下段のようなCTを見せられると、本当に出血だったのかどうか、なかなか分かりません。

 そういう意味からも早く1回CTを撮って何であったのかという事をはっきりさせておく事が大事です。

 

動脈瘤の血管造影像とくも膜下出血のCT像

写真はくも膜下出血を起こした方の左の頸動脈撮影(正面像)で、ここに黒い丸い球がみえますが、これが破れてくも膜下出血を起こしたものです。

 CT(右の写真)では、脳の表面に白く血液が行き渡っているのが分かります。くも膜下出血というのは、何の危険因子の無い方でも起こってくる可能性があります。

 例えば、八木次郎というアナウンサーや、コマドリ姉妹の1人や有名な芸能人の何人かがくも膜下出血を起こしておられます。この病気の場合は、なるべく早く先程の動脈瘤にクリップをかけるという事で再発が防げます。

動脈瘤の血管造影像とくも膜下出血のCT像

 

動脈瘤のMRA像、CT像

 最近では、先程のような血管撮影をしないで、磁石の磁場の中に入って検査が出来るようになりました。磁気共鳴画像診断装置(MRI)を用いて寝ているだけで血管の状態がある程度までは分かるようになってきています。

 MRIを用いた動脈造影がMRAです。MRA検査で、瘤があるのが分かります(写真上段)。

 最近ではCTの進化した非常にいい機械がありまして、CTを撮るだけで動脈瘤が分かるようになっていますから、痛い目に遭わないで脳の動脈瘤が発見されるようになりました(写真下段)。

動脈瘤のMRA像、CT像

 


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