−千里ライフサイエンス市民公開講座における講演抄録−

●と き 1997年7月19日
●ところ 千里ライフサイエンスホール

国立循環器病センター名誉総長 
日本脳卒中協会会長 山口 武典

−もくじ−

  脳卒中がおこったらすぐ入院

  脳卒中がおこったらどうする?

  脳卒中の前触れ症状

  脳卒中を予防するにはどうしたらいいか


『脳卒中の前触れ症状』

脳卒中の前触れ

 脳卒中に前触れはあるのでしょうか。それは「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれています。

症状は脳卒中と全く同じですが、数分から十数分、長くても1日以内に完全に良くなって元に戻ってしまうのが一過性脳虚血発作です。

 夢を見てたのかな、と思うほど完全に良くなりますので、昔は「血圧が高いからでしょう」と「動脈硬化の為でしょう」などとそのまま放っておいた訳ですが、それが脳卒中の前触れなのです。

 一過性脳虚血発作を1度経験した人の約3割は、近い将来に脳卒中を起こすといわれています。しかも、その3割の人のうちおよそ2割(一過性脳虚血発作を起こした人の約6%)は、一過性脳虚血発作の1ヶ月以内に脳卒中を起こしています。ですから、このような発作があればなるべく早く治療をしなければなりません。

一過性脳虚血発作の原因

 では、なぜ一過性脳虚血発作が起こるのでしょうか。

 最大の原因は、首にある頸動脈の動脈硬化です。頸動脈に動脈硬化があるとその表面に血栓が付着しやすくなり、なにかの拍子にそれが離れて流れて行って脳の動脈に引っかかったり、目に行っている動脈に引っかかったりします。目に行っている動脈に引っかかると、片目だけが数分間から数十分見えないということになります。ですから、目の調子が急におかしくなった時には、片方の目だけが見えにくいのか、あるいは、両方とも変なのかを自分で認識することが非常に大事です。もしも、片方の目だけが急に見えにくくなって、数分で見えるようになれば、脳卒中の前触れであると考えた方がいいでしょう。

頸動脈の動脈硬化1

 血栓が流れて行って別の血管に引っかかるなどと言うことが本当にあるんだろうか、と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、私が病院で経験したある患者さんの例をご紹介します。

首をもんだ後、一過性脳虚血発作をおこした方の脳血管撮影

 

図1 矢印のところが動脈硬化のある部位

 

 その患者さんの血管撮影がこれですが、首の所がでこぼこしているのがお分かりいただけると思います(図1)。このでこぼこした動脈硬化が一番危険で、ここに血栓がつき易いのです。

その患者さんは48歳の営業職の方でしたが、ある日、非常に肩が凝ったので家に帰ったあと親指を前にして自分で首の右をもみました。すると親指が頸動脈があるあたりに来ます。つまり、この血管をもんだことになります。もみほぐしてこの血栓がはがれて、脳の動脈に引っかかって左の軽い片麻痺が起こりました。その時はすぐに治りましたが、気にもしないでほったらかしにしたまま1年経って、また同じ事が起こりました。しかし、今度は治らないので我々の所へ来られました。

 血管撮影をしますと、この様な病変があったというわけです。この方にはアスピリンを処方し、症状は起こらなくなりましたが、非常に危険な状態ですので、最終的には脳外科の先生にお願いして首の血管の掃除(内膜剥離術)をしてもらいました。

頚動脈の超音波画像

 

図2 プラークが半年後に大きくなっていました

頸動脈の動脈硬化2

 最近では血管撮影をしなくても超音波である程度分かるようになってきました。

 これは内径動脈の超音波画像です(図2)。

 この様な血管内の隆起性病変をプラークと呼びますが、この方の場合ある時点でこの程度のプラークがあったのが、半年経ってこのように大きくなっていました。これでは危ないですので、手術に踏み切りました。

血栓ができるのを防ぐには

 では、TIAや脳梗塞の原因となる血栓ができないようにするにはどうすればよいのでしょうか。

 その一つは、血栓が大きくなるのを抑えるアスピリンという薬です。

 アスピリンはずっと昔から解熱剤として使われている薬で、非常に安価です。これを使う事によって、一度脳卒中を起こした方の再発が約3割減るといわれています。

 このアスピリンは血液の中の血小板という出血を止める働きをする成分をやっつけて、血栓をできにくくします。しかし、少しの怪我でも血が止まりにくくなったり、或いは、脳出血が起こると普通では何でもない位の小さな出血が非常に大きな脳出血になったりすることがあります。このように、アスピリンには諸刃の剣の性能がありますから、薬局で簡単に手には入りますが、ご自分で勝手にお飲みにならない方がいいでしょう。

 

頸動脈内膜剥離術前後の頸動脈造影

 

図3 手術前(左)と手術後(右)

  もう一つは、外科手術です。この患者さんは、外科の先生に手術してもらって全く症状がなくなりました(図3)。

手術前(左)は首の所の動脈が90%位細くなってます。

 手術しますとこんなにきれいになりました(右)。

 最近のアメリカでのデータでは、専門の外科の医師がうまく手術をした場合は、内科的にアスピリンを服用するよりもその後の経過が良いということです。

 ただし、それは70%以上狭窄がある場合に限っての話です。少し狭くなっているだけで下手に手術をするとかえって後遺症が残る可能性があります。

 ですから、一過性脳虚血発作があったら必ず専門家に診てもらい、血管の検査をして、必要な治療を受けなければいけません。


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