−千里ライフサイエンス市民公開講座における講演抄録−

●と き 1997年7月19日
●ところ 千里ライフサイエンスホール

国立循環器病センター名誉総長 
日本脳卒中協会会長 山口 武典

−もくじ−

  脳卒中がおこったらすぐ入院

  脳卒中がおこったらどうする?

  脳卒中の前触れ症状

  脳卒中を予防するにはどうしたらいいか


『脳卒中がおこったらどうする?』

脳卒中が起きたら

 脳卒中が起きた場合、その場でまずどうすればよいかをお話しします。

 まず、頭を高くしないで、適当な場所に静かに移します。なぜ頭を高くしてはいけないかについては、後で述べます。移動の際、頭ががくがく動かないように、首に手を当てながら移してください。昔は、「脳卒中が起きた場所にそのまま寝かせておきなさい」、「便所で倒れたらそのまま便所に寝かせておきなさい」、というように安静が重要視されていましたが、最近ではそれほどではありません。大切なのは、頭があまり動かないようにして、頭を水平にした状態で寝させてあげることです。ただし、その時の状態によって横向けにすることも必要です。例えば嘔吐が強い場合は横に向けないと危険ですし、麻痺がはっきりしていたら麻痺側を上にして横向けにしなければなりません。
 次に、掛かりつけの先生に病状を正確に伝えることが大事です。掛かりつけの先生に電話をかけ、慌てないで必要なことを伝え、先生の指示に基づいて救急車で患者さんを運ぶことです。できるかぎり専門医のいる病院に運ぶのが良いでしょう。大事なのは、どんなに軽い脳卒中でも入院が原則ということです。脳卒中であるかどうかを見分けることが必要となりますが、症状を見て大まかに判断して下さい。特に、意識が無い、体の片側の麻痺がある、言葉が出にくい、呂律がまわらない等の症状があれば脳卒中の可能性は非常に高いと言えます。では、どのようなことを医師に伝えるべきかについて述べます。いつ、どこで、何をしている時に起こったか、これである程度の病型の判断ができる場合もあります。それから、頭痛があるかどうか、めまいがあるか、しびれがあるかなどを、言葉が出る場合はご本人に聞いてください。さらに、けいれんが起こっていないか、今までどんな病気があって、どんなお薬を飲んでいたか。このくらいの内容を電話で伝えたいものです。これらの情報から医師が判断して、「すぐ来て下さい」、とか、「今から行くから待っていて下さい」などの指示が出ることになります。

頭を高くしてはダメ

 さて、患者さんを寝かせるとき、なぜ頭を高くしてはいけないかについて説明します。

 意識が無い時に頭を高くしますと、頸が前方へ曲がって舌が喉の奥の方に落ち込んでいきます。高い枕をしていびきをかく人が時々カッカッと引っかかったりするのも、舌がいくぶん落ち込んでいるからなのです。なるべく顎を上に向けてのばした状態にしますと、舌が落ち込まないので空気が自由に通って息が詰まりません。ところが高い枕を当てますと、首が前に曲がって舌が落ち込み、そのために呼吸が止まってしまうこともあります。このようなわけで、脳卒中がおきたら枕をはずして寝かせる、場合によっては肩に枕を当てるということが大事です。

脳卒中専門の病棟

 そして、できるだけ早く病院に運ばなければいけないわけですが、普通の病棟に入った方と脳卒中専門の病棟に入った方とを比べると、やはり脳卒中専門の病棟に入った方のほうが予後が良いというデータが出ています。

 イギリスの研究グループによると、一般病棟に入った患者さんと脳卒中集中治療室に入った患者さんとを比べると、脳卒中集中治療室に入った患者さんでは約3割ほど死亡が少なく、転帰不良(死亡/寝たきり)の人も減っています。またデンマークの研究グループは、入院中の死亡率、6ヶ月後の死亡率、全期間での死亡率、これら全てにおいて脳卒中病棟に入った患者さんのほうが一般病棟に入った患者さんより低く、家庭への退院も脳卒中病棟に入った人の方が多かったと発表しています。専門的な治療をすると特別な薬を使わなくても予後は良い、ということがおわかりいただけるかと思います。

血栓を溶かす治療

 

 最近では、大きな血管が詰まった場合、早い時期に溶かしてやればいいという考えが出てきています。

 例えば心筋梗塞の場合は、ご存知の方もあると思いますが、風船を膨らませて詰まった血管を広げるという方法が必ず行われるようになってます。ところが脳は心臓に比べると非常に脆い組織なので、時間が経ってからそういうことをすると大変危険なのです。つまり、脳の一部がやられて死んでしまったところに突然血液が流れ始めると出血してしまい、そのためにかえって悪くなるということが起こります。けれども、ごく早い時期に詰まった所を溶かしてやれば大丈夫ということがわかって、血栓溶解薬(血管の中にできた血栓を溶かす薬)が再び注目され、10年ほど前から全国で治験が行われました。

 この図は私どもの病院で行った治験の対象となった患者さんの脳血管造影ですが、症状が起こってから1時間半の時点で血管撮影をするとこの様に血管が詰まっていました(図左)。

 すぐ、血栓を溶かす薬を1時間かけて注射しますと、30分ぐらい経った時に、右腕が動かなかったのが突然動き始め、全くしゃべれなかったのがしゃべり始めたのです。ちょうど1時間後に血管撮影を再度しますと、血栓はきれいに消えていました(図右)。

 つまり、薬によってここにあった血栓が溶けて流れ去ってしまった、という例です。

 全国で血栓溶解薬の治験を行い、有効であると厚生省に申請した段階で、製造元の会社が特許問題で裁判に負けてしまい、非常に残念なことながらまだ日本では薬になっていません。訴えたほうのアメリカの会社はアメリカで治験を行い、あらゆるタイプの出血の無い脳梗塞に対し、発症3時間以内に血栓溶解薬を使うと、ニセ薬(薬効は全くないが、見た目がそっくりな無害なもの)を使った場合に比べて、麻痺が非常によくなる割合が約50%増えますよ、というデータが出たのです。世界中で最も審査が厳しいといわれるFDA(食品医薬品局)もこの治験の結果を認め、現在アメリカでは、起こって3時間以内の脳梗塞でこのtPA(ティーピーエー)という血栓溶解薬が使われるようになりました。日本でも早くこれが使われるようになれば良いと思いますが、現在のところまだいろいろな事情があって認められていません。

脳卒中が起きたらすぐ入院

 このように、発症3時間以内であれば治る望みがあるにもかかわらず、5時間、10時間、あるいは20時間も経ってからやっと病院に来る患者さんがたくさんおられます。

 こんなことではいけませんので、脳卒中も「早く治療すれば効果があるのだ」ということを、まだ脳卒中になっていない一般の皆様に広くキャンペーンしていきたいと考えています。


脳卒中が起きたときの対応のポイント


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